東京地方裁判所 昭和47年(合わ)376号 判決 1972年10月20日
主文
被告人を懲役一年六月に処する。
この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
押収してある自動車運転免許証一通(昭和四七年押第一七五二号の一)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 昭和四六年五月末ころ秋田県男鹿市脇本字乍木の県道上において、板橋文雄が遺失した同人に対する秋田県公安委員会作成名義の自動車運転免許証一通を拾得しながらこれを自己の用途にあてるため正規の届出をしないで持ち去り、もつて遺失物を横領し、
第二 同年六月初ころ、同市船越町字船越二六の一所在の米谷自動車整備工場従業員寮の自室において、行使の目的をもつてほしいままに、前記第一のとおり拾得した板橋文雄に対する秋田県公安委員会発行の同委員会の記名および押印のある普通、大型特殊、原付の各免許が併記されている自動車運転免許証(昭和四六年二月三日付交、免許証番号第二三六七〇二五九九〇〇―〇三〇五号)の写真欄に貼付されている右板橋の写真をはがし、そのあとに自己の写真を貼付して、あたかも自己が右免許証の交付を受けた板橋文雄であるかのような外観を呈する有印公文書である前記公安委員会作成名義の自動車運転免許証一通(昭和四七年押第一七五二号の一)の偽造を遂げ、
第三 公安委員会の運転免許を受けないで、同年七月一四日午前〇時三〇分ころ、同市男鹿中滝川字萱置場付近道路上において、普通乗用自動車を運転し、
第四 前記第三の日時・場所において酒気を帯び、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で同記載の自動車を運転し、
第五 前記第三の日時ころ、業務として同記載の自動車を運転し、同記載の道路(幅員約六メートル)上を滝川三差路方面から滝川有料道路ゲート方面に向かい時速約六〇キロメートルで進行中、前方の道路は右方に屈曲しているので、あらかじめハンドルを確実に操作できるよう速度を減じて進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、酒の酔いの影響により注意力散漫となり、漫然前記高速度のまま進行した過失により、自車を道路に沿つて進行せしめ得ず道路左側約三メートル下の叢の中に転落させ、よつて、自車の助手席に乗つていた小野真太郎(当時二一年)に加療約一七日間を要する右前腕裂傷の傷害を負わせ
たものである。
(証拠の標目)<略>
(法令の適用)
<前略>なお、本件のうち、判示第三ないし第五の交通事犯は被害の結果こそ比較的軽いものの、運転行為の態様はきわめて悪質で、交通上危険度の高いものであるといわなければならないが、右は秋田県内で発生した事犯であるので、当裁判所が職権で取調べた仙台高等裁判所秋田支部の判決調書一覧表(昭和四五年、昭和四六年度分)によりうかがわれる同支部管内の同種事犯に対する量刑の傾向をも参酌し、被告人を懲役一年六月に処するが、特に刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとし、押収してある自動車運転免許証一通(昭和四七年押第一七五二号の一)は、判示第二の犯罪行為より生じた物で、なんびとの所有をも許さないものであるから、同法一九条一項三号、二項によりこれを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。
よつて主文のとおり判決する。
(鬼塚賢太郎 片岡安夫 安廣文夫)